電気工事をやっている電柱の下で電線を拾うだけでは飽き足らず、私は新たな電線の確保方法を探し始めたのである。 といっても、ドラム缶と違って、電線はそのあたりに無造作に積み上げてあるようなものではない。

電線が無防備な状態で存在しているのは、入居前の新築一戸建の建売住宅なのである。 それに気づいた私は、さっそく家の建築現場を探し出して夜中にそこに忍び込むと、屋根裏に張り巡らされた電線を切って盗み出したのだった……。
あの時代を記録したフィルムなどにも、よく、タバコを吸いながら街を閑歩している少年の姿が映し出されている。 あるいは戦争が終わって、これまで教え込まれていた価値観が正反対にひっくり返ってしまったことに対する、子供なりの反抗だったのだろうか。
もっとも、私にはどのイデオロギーもなかったのだが、今になって考えれば、ずいぶん情けないことをしていたものである。 こんな私の行為には、さすがの母も悩まされていたようで、戸塚警察署や目白警察署の少年課に、何回となく頭を下げに行ってくれていたようだった。
また、日比谷の家庭少年審判所などにも行ってもらったことは、今になって考えれば、ずいぶん申し訳ないことだったと思う。 母には悪いが、その頃の私は、自分ではあんまり反省していなかったような気がするのだ。
というのも、少年法という法律があって、それによれば中学生には決して刑事罰が加えられないということを、私自身がよく知っていたからである。 どんなに悪いことをしても、刑務所に入れられることはない、前科者になる心配はないIそのことを知っていたからこそ、そんな悪事も平気でやれたのだった。
自分で言うのも変なのだが、だから、少年法のあの規定は、決していいものではないと私は思っている。 少年らは、無知だから法を犯すのではなく、むしろ、知っているからこそ犯罪に手を染めるのだ。

純真無垢な少年を罰してはならないなどという評論家や教育者の方もいらっしゃるようだが、逆である。 純真でも無垢でもない、法の抜け道を熟知している少年には、大人並みにきちんとした罰を与えるのが、彼らに対するいちばんの教育なのだ。
私にそんなことを言う資格があるのかとお叱りを受けそうだが、自分がそうだったからこそ、言えることもあるのではないだろうか。 ちょっと不遜とは思いながらも、私なりの考えを述べさせていただいた。
さて、ここで、なぜ少年課の刑事が煎餅屋を紹介してくれたのかという話にもどるわけだが、それには、実は歴史から隠された1つの「真実」があったのである。

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